契約書が存在することに潜む落とし穴(契約の基本・第4回)

契約書が存在することに潜む落とし穴(契約の基本・第4回)

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contract契約書はどういうときに作るべきか?(契約の基本・第1回)

はじめに
こんにちは、弁護士の矢内良典(やないりょうすけ)です。

今回からは、『契約の基本』と題して、「契約」というテーマに…

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promise契約書は必ず作らなければいけないのか?(契約の基本・第2回)

前回のおさらい
弁護士の矢内良典(やないりょうすけ)です。

契約をテーマにした連載、『契約の基本』の第2回は、「契約書は必ず…

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rainなぜ契約書はそれほどまでに重要なのか?(契約の基本・第3回)

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前回のおさらい
弁護士の矢内良典(やないりょうすけ)です。

『契約の基本』第3回は…

 前回のおさらい

弁護士の矢内良典(やないりょうすけ)です。

『契約の基本』第4回は「契約書が存在することに潜む落とし穴」です。

前回の第3回では、

  • 裁判では、「契約書に表れているということは、そのような内容の契約があった(=そのような内容の契約が無ければ、それが契約書という形で表れることは通常はあり得ない)」という強力な経験則が働く。
  • 契約書がないことは問題だが、契約書があることの方がもっと大きな問題になる場合がある。

ことなどを解説しました。

今回は、それを踏まえて、契約書が存在することにいったいどんな問題があるのかを具体的に解説いたします。

それでは見ていきましょう。

 契約書の落とし穴

契約書が存在することに潜む最大の落とし穴。それは、

「契約書に書いてあること」と「当事者が合意したと思っていること」が一致しないことがあるということです。

いくつか具体例を挙げてみてみましょう。

全く違うことが記載された契約書

これは例えば、「代金300,000円でWebページのデザインをする」契約をしたはずなのに、契約書には代金3,000,000円と記載されてしまったというような場合です。

契約当事者は双方とも代金300,000円で合意をしたと思っているのに、契約書上では代金3,000,000円で合意したことになってしまっています。

この場合、Webページの製作者側が「3,000,000円で合意しました!」と嘘をつかない限り大きな問題にはなりません。

概念の定義が不十分な契約書

dictionary

少し詳しめの例を挙げてご説明いたします。

まずはこちらをご覧ください。

第7条(納品)

(1)乙が甲に制作物の納品を行なう前に、甲はインターネット上にてその確認を行なうものとする。
(2)甲は、乙からの確認依頼通知を受領後速やかに、その内容の確認を行なう。甲から乙への確認通知は確認依頼通知への返信メール、または文書により行なう。確認依頼通知の受領後7日以内に乙宛への連絡が無い場合は、甲により制作物の内容が承認されたものとする。
(3)甲が制作完了後の更新や修正を希望する場合は、乙規定の方法で知らせる。

第8条(公開)

乙は、甲による委託料金の完済後、制作物を公開するものとする。なお公開後、制作物に掲載された内容に関しては、乙は一切の責任を負わない。

第9条 (制作物の返品・再制作)

納品物の再制作の必要がある場合は、費用は甲が負担し、乙が合理的な根拠に基づいて計算した追加料金を支払う。なお納品物の返品はできないものとする。

これはWeb上で入手した、Webページ制作に関するある契約書の抜粋ですが、みなさんはここに挙げた条項の問題点がわかりますか?

7条3項と9条をよく見比べてみてください。

「制作完了後の更新や修正」と「納品物の再制作」の境界線、わかりますか?

少なくとも私の目からは、どこまでが制作完了後の更新や修正で、どこからが納品物の再制作なのか、はっきりとはわかりません(もちろんそれぞれを定義した規定などはありません)。

これでは、せっかく契約書を作ったのに、制作完了後に新たな作業が必要になった場合のルールは無いに等しい状態です。

新たな合意をする必要が出てくるし、合意が出来なければ紛争に発展してしまいます。

これは、異なる2つの概念について、抽象的には違いが表現されていても、具体的に考えるとその違いの境界線があいまいで様々な解釈ができてしまうというパターンです。

また別のパターンもご紹介しておきましょう。

語法・法的知識が不正確な契約書

まずはこちらをご覧ください。

第14条(知的財産権の帰属)

(1)本制作物の制作過程において行なった考案等の著作権その他の権利を含む知的財産権は、甲が行なった場合は甲に、 乙が行った場合は乙に、甲乙共同で行なった場合には甲乙共有(持分は別段の定めがない限り均等)に帰属する。

これも先ほどの例と同じ契約書の中の別の条項です。

さて、こちらの条項の問題点はおわかりでしょうか?

「本制作物の制作過程において行なった考案等の著作権その他の権利を含む知的財産権」

問題はこの表現です。

まず、「考案等の」が「著作権」に係るのか「知的財産権」に係るのかがはっきりとしません

また、この条項を作成した方は、「著作権」や「知的財産権」などの法的概念をあまりよく理解しないまま使っていることが伺われます。

細かい分析は省きますが、私が最初にこれを読んだとき「考案等の」は「著作権」に係るように読めました。
そして、そうだとすれば法的には明らかに間違っています。
考案そのものは、著作権の具体例でもなければ著作権の客体でもないからです。
このような間違いがあると、その条項が無効となるのか、当事者の意図を可能な限り解釈すべきなのか、といった新たな問題を作り出してしまいます。

これは、言葉の使い方や法的な理解の正確性に問題があるパターンです。

まとめ

以上見てきたように、契約書を作ったからといって安心してしまうと思わぬ落とし穴が待ち受けているということがあります。

場合によっては、契約書がないから何とか記録を残しておかなければと、交渉過程でやり取りしたメールなどを丁寧に保存している場合の方が契約の解釈がスッキリするということさえあるのです。

では最後に、今回のまとめを記載しておきます。

・契約書が存在することに潜む落とし穴とは、「契約書の記載」と「実際の合意内容」が一致しないことがあること。

・概念の定義が不十分だったり、語法・法的知識が不正確だと、契約書を作った意味が激減する。

次回(第5回)は「良い契約書の条件」を予定しています。