なぜ契約書はそれほどまでに重要なのか?(契約の基本・第3回)

なぜ契約書はそれほどまでに重要なのか?(契約の基本・第3回)

第1回はこちら

contract契約書はどういうときに作るべきか?(契約の基本・第1回)

はじめに
こんにちは、弁護士の矢内良典(やないりょうすけ)です。

今回からは、『契約の基本』と題して、「契約」というテーマに…

第2回はこちら

promise契約書は必ず作らなければいけないのか?(契約の基本・第2回)

前回のおさらい
弁護士の矢内良典(やないりょうすけ)です。

契約をテーマにした連載、『契約の基本』の第2回は、「契約書は必ず…

前回のおさらい

弁護士の矢内良典(やないりょうすけ)です。

『契約の基本』第3回は「なぜ契約書はそれほどまでに重要なのか?」です。

前回の第2回では、

  • 契約書が無くても契約書は成立する。
  • 契約書は現在の裁判実務上もっとも重要な証拠の一つである。

ことなどを解説しました。

今回は、それを踏まえて、なぜ契約書がそれほどまでに証拠として重要視されているのかを解説いたします。

それでは見ていきましょう。

経験則

そろそろ恒例となりつつありますが、まず最初に答えを言います。

なぜ契約書が証拠としてそれほどまでに重要なのか。それは、

強力な経験則が働くからです。

「経験則」という耳慣れない言葉が出てきました。

【経験則】
広く経験から帰納して得られた知識・法則。(有斐閣『法律用語辞典』第4版)

例えば、朝起きて地面が濡れていたら、「寝ている間に雨が降ったのだな」という推論が頭に思い浮かびませんか?

このような推論をするとき、「朝、地面が濡れているということは夜中に雨が降った(=夜中に雨が降ったのでなければ、朝地面が濡れているということはない)」という経験則が働いているのです。

これは、「夜中に雨が降ったことによって翌朝地面が濡れていた」という具体的な経験から導かれる一般的な法則です。

この「経験則」は、裁判における事実認定の場面では欠かすことのできないものです。

契約書を証拠として扱う場合ももちろん例外ではありません。

契約書と経験則

document

契約書に関しては、次のような経験則が働きます。

「契約書があるということは、そこに書かれているような内容の契約があった(=契約がされていないのであれば、契約書が作られるということはない)」

そして、この経験則はとても強力なのです。

では逆に、契約書がない場合はどうでしょうか?

「契約書が存在しないということは、契約をしていない」といえるでしょうか?

これも一つの経験則であることに違いはありませんが、契約書が存在する場合と比べて限りなく説得力に乏しいです。

コンビニで買い物をすることも立派な契約であることなどからもわかるように、

契約書がなくても契約をしている場面がたくさんあるからです。

#ちょっとひといき <経験則について>

経験則の持つ説得力には強弱があります。

そしてその強弱は、「経験則の例外がどれほどあり得るか」によって計ることができます。

例えば「朝地面が濡れているということは夜中に雨が降った」という経験則については、

  • 誰かが朝早くに水をまいた。
  • 水道管が破裂した。
  • 火事があって消防車が放水した・・・

など、「雨が降った」以外の地面が濡れている原因を考えることができます。

そして、その例外の説得力が大きいほど、元の経験則の説得力は乏しいものとされます。

契約書の場合はどうでしょうか。

契約をしていないのに契約書が存在するという場面はなかなか想像するのが難しいと思います。

みなさんもぜひ、いろんな経験則の説得力を考えてみてください!

それでは、本題に戻ります。

「契約書が存在する」ということの意味

裁判所は、「契約書」という目に見えるものを手掛かりに、「契約内容」という本来目に見えないものを探していきます。

その過程で、「契約書に表れているということは、そのような内容の契約があった(=そのような内容の契約が無ければ、それが契約書という形で表れることは通常はあり得ない)」という強力な経験則が働きます

このような強力な経験則が働くことで、証拠として提出した契約書に書いてある通りの契約内容を裁判所に認めてもらえることから、契約書は重要なのです。

ではやはり、とにもかくにも契約書を作るべきなのでしょうか?

ともすると、みなさんは「契約書がない」ことに焦りを感じがちです。

しかし、「契約書がある」ことにも問題は潜んでいます

そして、その問題は、契約書がない場合よりもはるかに大きな問題となる可能性を含んでいます。

まとめ

・裁判では、「契約書に表れているということは、そのような内容の契約があった(=そのような内容の契約が無ければ、それが契約書という形で表れることは通常はあり得ない)」という強力な経験則が働く。

・契約書がないことは問題だが、契約書があることの方がもっと大きな問題になる場合がある。

次回(第4回)は「契約書が存在することに潜む落とし穴」を予定しています。